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『わたしを離さないで』読了

夏季休暇中に読んだ本です。著者はカズオ・イシグロ。たぶんこの人の作品の中で、今のところ一番読み易い本なんじゃないでしょうか。とある施設で生まれた子供たちが様々な経験をしながら大切な記憶を胸に刻み、生を全うするお話。とても良かったです。久しぶりに浅田次郎の作品以外で泣きそうになりました。初読よりもストーリーや世界観が理解できている2回目のほうが心に響きます。
この作品は世界観が独特なのですが、あえて最初から説明せず、読み進むにつれ徐々に理解できるよう作られてます。それは物語の主人公たちが子供から大人に成長していく過程で、世の中の、そして自分たちのかたちを次第に理解していく体験を読者にも共有させる意図があるのだそうです。それがどこまで成功していると感じるかは個人差がありそうですが、私はなかなか面白い試みだと思いました。

この作品は世界観を説明せずに感想を書くのが難しいので、以下はネタばれありです。
これから読む人は見ないことをオススメします。









この作品の主人公たちは臓器提供のために生み出されたクローン人間です。成人した彼らは早ければ一度目の「提供」で、運が良くても四度目の「提供」で短い生を終えます。それは絶対に避けられず、それゆえ彼らは淡々と従順に使命を果たします。面白いと思ったのは、この手のストーリーにありがちな悲壮感や生への執着といったものがあまり語られない点です。それはクローン人間や短命であるといった設定がただの舞台装置に過ぎず、作者が書きたかった本質ではないからだろうと思います。ある番組で作者自身も言っていたのですが、この作品は人間性について楽観的な見方をしています。自分の人生が残り少ないと感じた時、人は何を重視するのか。今際の際に我が人生に一片の悔いなしと想うには何が大切か。それは赦しであったり、友情や愛情、それらの記憶だとイシグロは言っています。自分の中の幸せな記憶、死んだ後も誰かの記憶の中に残ること。それは 死に対するpartial victory (部分的な勝利)でありconsolation against death (死への慰め)なのだと。自分も2年前に祖母が103歳で亡くなったとき、彼女は幸せだったのだろうかと考え、同じ結論に達したことがあります。誰もが考える普遍的な思想かもしれませんが、それを美しい文章で読ませてもらえたことがとても良かったです。
また、個人的に好感がもてたのは、主人公たちに対する普通の人間たちの反応が、基本的には嫌悪感だったということです。一番の味方だったエミリー先生やマダムでさえ、身震いを抑えるのに必死だと本人に明かします。そして最後まで人間と同等には扱いませんでした。それはとても自然な感情だろうと思うのです。クローン人間というものがもし本当に作られて自分の目の前に現れたら、きっと憐れみよりも先に畏怖を感じるだろうと自分も想像するからです。こういった描写のリアリティが、ありがちなストーリーでありながら陳腐さを感じさせない理由の一つではないかと思いました。

なお、自分が読んだのは翻訳された本でしたが、まるで最初から日本語で書かれているかのようにとても美しい文章だったことを最後につけ加えておきます。英語力がもっとついたら原書も読んでみたいですね。

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Comments

読んでみた。けっこう新鮮で面白かった。
つらつら考えてみると、拘束されていないのに暴動や逃避が起こらないところを不思議に感じた(言及されていないだけ、という解釈もできるけど)。

Posted by: ササキ | November 27, 2011 at 12:39

超亀レスごめん。こっちも本読み終わってからと思ってたらすごい時間かかった。

なぜ逃げないかについては、やっぱり気になる点だよね。好意的に解釈すると、あの人たちには戸籍がなくて行動が大きく制限されてる、とかかな。社会的にゆるく監視&拘束されてるイメージ。それゆえに本人たちに諦めムードが強いとか。ササキの言うように意図的に描写してない気がするね。最近、映画化されてることを知ったので、いつか観てみようかと思ってる。

こちらは今日やっと「重力ピエロ」を読み終わった。独特な語り口で好みの分かれそうな作者だね。中学時代に薦められた草上仁を思い出した。貴志祐介の「青の炎」をさらに軽くした感じともとれる。映画を偶然観て興味が湧いて読んだのだけど、面白かったよ。

Posted by: 通りすがりの管理人 | March 18, 2012 at 23:54

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