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中世に生きる(その1)

父は地方の領主に仕える衛兵でした。給料が安く、一家が食べていくのに十分な収入がなかったため、物心ついたころから私は領主の館に入りました。そこでは腰を低くして主人の一家に仕えることを身につけ、また彼らがチェスに興じ、噂話を花を咲かせ、武勇伝や宮廷恋愛の詩を吟じる姿を目の当たりにし、しだいに大人の世界を学んでいきました。
あるとき転機が訪れました。武勇の才能が認められ、領主に仕える従士となったのです。それからは来る日も来る日も修行にあけくれ、また、主人に対する恩義、家臣へ対して追う義務のなんたるかを教えられました。しかし学んだのは騎士道の理想だけではありません。非情な政治、裏切りと謀略など、老騎士が聞かせてくれた話から、世界の暗い部分も学んだのでした。
やがて私は放浪の旅に憧れを覚えるようになりました。この広い世界を自分の足で見て回りたくなったのです。その思いは日に日に強くなり、ついに抑えきれなくなったある日、意を決して主人に申し出ました。その結果、地位や財産を全て失いはしましたが、晴れて私は自由の身となったのです。
体に馴染んだ剣と防具、そして盾を身につけ、愛馬に跨った私は住み慣れた土地に別れを告げました。

それまでに聞いてたこの世界の様々な噂話を思い出しながら、私は初めの行き先を考えました。そしてまず、北方の大国の街へ向かう隊商に同行することにしました。凍てつく北風が吹きすさぶ高地は、一年の大半を雪と氷に閉ざされてはいますが、森には毛皮が取れる動物が数多く生息し、川も魚であふれかえっていました。その豊かな自然は人々をひきつけ、また同時に野党などのならず者たちをもひきつけていました。道中、毛足の長い馬にまたがった怪しげな人影が雪に覆われた丘の上から隊商をじっと見つめていたことも一度や二度ではなく、ボルク川が流れる広大な谷の向こうに街の尖塔が見えたときは、心の底から安堵したものでした。

街に到着し、隊商と別れて宿に着いた私はくたくたに疲れていました。それでも明け方には起き出し、街を探索することにしました。まだ時間が早いため通りには人影がありません。
と、突然、身の毛が逆立つような音を耳にしました。それは剣が鞘から抜かれる音でした。私も反射的に腰の長剣を抜き、四方に目を配りながら盾を構えました。その男は3軒向こうの通りの角から短剣のようなものを手にゆっくりと近づいて来ました。理由は分かりませんが私を襲おうとしているのは明らかでした。一瞬、背中に吊るしたクロスボウで狙い撃とうか迷いましたが、この間合いでは弦を引く時間はないと判断し、そのまま盾を正面に構えつつ相手の出方を伺いました。近寄って来た男は顔中に髭を生やし、身なりも汚い、いかにもならず者といった風情でした。上段から1撃、2撃振り下ろされた短剣を盾で難なく防ぎ、手薄になった胴を長剣で薙ぐと、あっさり男は倒れました。こんな街中に野党が出没するとは、この街の治安状態は悪いのだろうか?血溜まりの中に無言でつっぷす男を見下ろしながら思案していると、遠くから今度は町人と思わしき格好をした男が小走りに近寄ってきました。その男は私の戦いぶりをひとしきり賞賛し、話したいことがあるので自分の家まで来てもらえないかと言いました。この件についての情報が欲しかった私はひとまず承諾して男について行くことにしました。

家につくと男は私を中に引き入れ、扉を閉めた後、しばらくそこで外を伺っていましたが、尾行されていないと判断したのか、安堵の表情を浮かべて私に向き直りました。男はこの街の商人だと自己紹介し、まずは私が無事だったことを喜びました。男によると、今、この街ではあのような盗賊が頻繁に出没しているとのことで、早朝や夕暮れ時になると住人はほとんど家に閉じこもるような生活をしなければならないのだそうでした。その原因は、隣国との国境紛争によって街の警備隊がかり出されてしまい、街道の警備が手薄になってしまっているから、というのが一般的な見解のようでしたが、男は別の可能性を考えているようでした。それは、街の中に盗賊の手引きをしている者がいるということでした。そして実は先日、男の弟もそういった盗賊に囚われて行方不明になってしまっているのだそうでした。弟は素行が悪く、多分に自己責任ではあるものの、家族を見捨てたとの噂が商売に悪影響を与えることを恐れているようでした。しかし、だからといって盗賊たちに身代金を渡したくはないらしく、男は次のような提案をしました。それは近隣の村を巡って腕の立つ者を5人ほど集め、盗賊のアジトをつきとめて弟を救い出して欲しいというもので、その資金として金貨100枚を渡す準備があるとのことでした。私は他に目的も無く、また名声を集める第一歩として適切な案件であることを考え、承諾することにしたのでした。

(続く・・・かもしれない)

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